2025年01月19日

中原翔「組織不正はいつも正しい〜ソーシャル・アバランチを防ぐには〜」

 企業を舞台にした不祥事では、ごく直近では三菱UFJ銀行の元行員による貸金庫からの窃盗事件がある。これは見事に「不正のトライアングル」が当てはまる。不正のトライアングルとは、動機、機会、正当化の3つが揃った時に不正は発生しやすいという理論である。動機はギャンブルやFXで多額の借金があったこと、機会はスペアキーを使って顧客の金庫を開けることができたこと、正当化は推測になるが犯人は一時的に借りるだけであり、当初から盗むつもりはなかったのではないかと思う。しかし、借りたつもりが借金が大きくなり、後戻りできない状態になってしまったのではないかと考えられる。

 これは個人の不正であるのに対して、自動車会社の燃費不正や認証不正は上記の不正のトライアングルでは説明が付かない。認証不正は世界の自動車販売台数No.1のトヨタ自動車でも発生している。わざわざ不正をする動機がないのである。燃費不正が生じた三菱自動車とスズキは国道交通省で定める試験方法が著しく困難であり、また海外への出荷を念頭に置いていたため出荷先の基準に基づく方法で測定を行ったいた。謂わば、過失的な不正であり、意図を持って不正を行った様子はないというのが第三者委員会の評価だそうだ。国内の申請には国の定める方法で行うのが当然という「正しさ」と、主な顧客は海外におり、お客さまの方を向いてビジネスを考える「正しさ」がせめぎ合っていたのだ。

 では、このような組織不正はどうすれば、防げるのか。多くの企業不祥事を契機にして様々な対応が積み重ねられているにも関わらず、企業不祥事はなくならない現状からも、完全な防止は困難である。著者は組織不正の防止策として、ダイバーシティを挙げている。単一な視点だと社会との乖離に気がつかないことも、多様な視点で検討することが重要であることは間違いない。本書も従来の不正理論とは違う視点を提供していることに大きな意義がある。
posted by asami3 at 13:59| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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